戦時輸送船概説

 ここに掲載したのは、管理人が2003年10月に大阪国際平和センター(ピースおおさか)で開かれた「十五年戦争研究会」で担当する発表に用いたテキストです。表題の内容を簡単にまとめてあります。


戦時輸送船概説

�T 軍備と商船

 海外貿易の中心的手段である海運の整備は、国力増大の要のひとつであり、列強はいずれも国家主導でその充実に力を入れた。一方、軍事力を背景とする帝国主義のもとでは、戦時における船舶の戦力的応用にも配慮がなされ、あらかじめ軍事利用を視野に入れた船舶の設計建造も古くから行われていた。
 戦争が起こった場合、世界的規模で活発化する艦隊や陸軍部隊の運用を円滑に進めるためには、とりわけ後方支援用の戦力の充実が大きな鍵を握ることになる。だが、想定される戦時の需要に対し充分な戦力を平時からそろえるのは、費用的にみて困難で効率が悪い。戦時における商船の軍事的有効活用を模索することは、国家戦略の上できわめて重要な要素だったのである。

1 日本の船舶保有量と徴用の状況

時期  総保有量 徴用量
明治初期 6.6万総トン(1880年)
日露戦争 103万総トン(1906年) 67万総トン(最盛期)
太平洋戦争 634万総トン(1941年) 390万総トン(開戦時)
終戦時 221万総トン(1945年) 37万総トン

2 輸送船の軍事利用

1 輸送
  兵員・軍需品の輸送(後方兵站輸送・前線上陸作戦)
2 正規軍艦の後方支援
  補給、修理、移動司令部
3 正規軍艦の代用
  艦隊戦闘、哨戒、護衛、機雷戦(敷設・掃海)
4 特殊任務
  通商破壊
5 改造母体
  航空母艦

�U 日本海運界の発達と商船建造

 日本の海運界は、長期の鎖国によって外航船舶の保有量はもちろん、自国での建造技術さえ失っており、明治以降の近代化にあたっては国家的なバックアップが諸外国以上に不可欠であった。それだけに、軍事転用を前提とした造船管理の及ぶ余地も当初からかなりあったといえる。

1 明治・大正

 戦時の軍事転用を念頭に置いた商船は、日清戦争当時すでに存在していた。しかし、このような有事に対応するには船舶の質量とも不足していることを痛感した政府は、以後積極的に自国船会社の海外航路参入を後押しし、優秀船舶の確保に努めることとなる。第一次大戦に伴う船舶需要の増大を背景として、日本商船隊は量的にも急速に拡充された。

主要事項
 1885年 日本郵船設立 海運界の根幹固まる
 1896年 造船奨励法・航海奨励法成立 海外航路への本格的参入
 第一次大戦 造船量の飛躍的拡大 1919年の年間建造量61万総トン

造船の基本的傾向
 優秀船は主として航路助成による貨客船系統の確保
 その他の一般貨物船などは特に統制せず
 (第一次大戦時は各造船所が大量生産に応じ独自の量産船型を設計)

代表的船舶
 最初の特設軍艦用商船・・・「近江丸」「山城丸」
 代用軍艦の活躍と限界・・・「西京丸」「信濃丸」「さくら丸」
 ストックボート・・・「大福丸」

2 昭和

 第一次大戦後の不況でやや低調になっていた海運界だが、1930年代に入ると、軍縮条約に絡めた軍部の先鋭化を背景として、軍事色の強い船舶整備が急速に推し進められることになる。政府は不況打破の名目のもと、積極的な助成政策によって質的改善を図ったが、それとともに船舶の性能に関する軍部の介入度も次第に高まっていった。日中戦争の勃発によって国家経済が逼迫しはじめると、船舶建造は本来の設計根拠となるべき商業的見地を軽視され、生産効率を優先した標準船型へと移行された。

主要事項
 1932年 船舶改善助成施設実施(第一次〜第三次) 旧式船の代替促進
 1937年 優秀船舶建造助成施設実施(のち大型優秀船舶〜) 優秀船整備の促進
 1939年 標準船型の設定 建造統制の強化
 1942年 戦時標準船型の設定(第一次〜第四次)完全な国家統制への移行
 第二次大戦 造船量の飛躍的増大 1944年の年間建造量158万総トン
 建造量をはるかに上回る損失による商船隊の壊滅

造船の基本的傾向
 貨物船に対する優秀船助成の強化
 軍事的必要性を踏まえた性能面への政府介入強化
 海運界全般に対する統制強化
 
代表的船舶
 空母予備軍・・・「新田丸」「橿原丸」「あるぜんちな丸」
 ニューヨークライナー・・・「畿内丸」「綾戸山丸」
 艦隊用タンカーと捕鯨船団・・・「東亜丸」「第三図南丸」
 陸軍特殊船・・・「あきつ丸」「摩耶山丸」
 戦時標準船・・・大型貨物船から漁船、青函連絡船まで

�V 太平洋戦争と船舶の装備

 太平洋戦争中、日本商船はおよそ半数が陸海軍に正式徴用(期間傭船)され、それぞれの用途に応じた改装が施された。本来は見分けるのが難しい姉妹船でも、徴用先や用途によってまったく違う姿へと変貌していった例も多い。また、軍民の別なく攻撃される実情の中では、民需船といえども武装は不可欠であった。大戦後期には配当船制度によって軍の管理下に置かれる民需船も増え、武装の面でも正式な徴用船と民需船の差はあまり見られなくなっていった。

1 陸軍船の武装

応急的要素の強い諸装備・・・陸軍の徴用船に対する考え方
頻繁な配置転換を前提とした武装・・・船舶砲兵部隊(暁部隊)

2 海軍船の武装

周到な事前準備・・・建造当初からの性能要求、平時からの図面準備
用途に応じた本格的改造・・・不要な商船装備の撤去、時に徹底改造から買収へ

3 民需船の武装

緒戦期の充当の遅れ・・・ダミー砲や爆雷
中期以降は新造時から装備・・・海軍警戒隊、陸軍船砲隊の派遣 双方乗組みの場合もあり

付 船舶と迷彩

グレイ塗装・・・被発見抑制のための基本色 太平洋戦争開戦時より民需船にも適用
幻惑迷彩・・・主として潜水艦の雷撃照準を混乱させるもの
       陸海軍で大戦前半に多用 効果不充分として使われなくなる
後期迷彩・・・南シナ海に特化した緑系塗装と陰影打消迷彩を複合
       44年夏より民需船を含め広範に適用(新造船は最初から)

陸軍船の武装例

1 マレー半島・シンゴラ上陸作戦(1941年12月)

船名 船主 総トン数 高射砲 高射機関砲 野砲 備考
神州丸 陸軍省 8160 6 4 1 特殊船
佐渡丸 日本郵船 9246 6 8 防空船
笹子丸 日本郵船 9258 2
那古丸 日本郵船 7145 2
九州丸 大阪商船 8666 1
関西丸 大阪商船 8614 1
熱田山丸 三井船舶 8663 6 6 防空船
浅香山丸 三井船舶 8709
青葉山丸 三井船舶 8811
香椎丸 国際汽船 8407 2

注:「浅香山丸」「青葉山丸」は非武装の可能性が高い。

2 第一次ガダルカナル島強行輸送作戦(1942年10月)

船名 船主 総トン数 高射砲 高射機関砲 機関銃 野砲 備考
佐渡丸 日本郵船 9246 8 8
笹子丸 日本郵船 9258 8 8 撃沈
崎戸丸 日本郵船 9245 4 4 1
九州丸 大阪商船 8666 6 4 3? 撃沈
南海丸 大阪商船 8416 4 8 +40mm砲2門
吾妻山丸 三井船舶 7622 2 4 5? 撃沈

注:「南海丸」「吾妻山丸」は海軍船で、武装は他の陸軍船から臨時配乗したものを示す。

3 第二次レイテ島強行輸送作戦(1944年11月)

船名 船主 総トン数 高射砲 高射機関砲 機関銃 中迫 備考
金華丸 大阪商船 9306 4 10 2 独製レーダー搭載
香椎丸 大阪商船 8407 4 4 4 2
能登丸 日本郵船 7191 4 16(海軍25mm) 撃沈
高津丸 山下汽船 5656 6 6 特殊船

注:「金華丸」「香椎丸」は国際汽船から転籍。

太平洋戦争当時在籍した海軍特設艦船

下記の隻数は、太平洋戦争の全期間を通して当該艦種に編入された船舶ののべ総数を示しており、一部重複もある。

種別 隻数 船種 サイズ 改造程度 備考
特設航空母艦 7 貨客船 特大型 ◎ 準主力 徹底的な改造
特設水上機母艦 9 貨物船 大型 ○ 補助空母的役割
特設航空機運搬艦 11 貨物船 大型 △ 特水母の下位艦種
特設潜水母艦 7 貨客船 大型 ○ 潜水艦母艦 旗艦任務も行う
特設水雷母艦 4 貨客船 中型 △ 小型水上艦艇の支援
特設掃海母艦 3 貨客船 中型 △ 水雷母艦と同様
特設巡洋艦 14 各種 大・中 ○ 通商破壊用と防備部隊用に大別
特設砲艦 91 各種 小型 △ 特巡の下位艦種 敷設艦兼備も多い
特設敷設艦 9 貨物船 大・中 ○ 機雷敷設
特設急設網艦 2 貨物船 小型 △ 敷設艦の派生型
特設敷設艇 6 貨物船 小型 △ 敷設艦の下位艦種
特設防潜網艇 8 貨物船 小型 △ 同上
特設捕獲網艇 43 貨物船 小型 △ 同上
特設掃海艇 124 漁船等 小型 △ 掃海・護衛
特設駆潜艇 265 漁船等 小型 △ 哨戒・護衛
特設監視艇 407 漁船等 小型 × 本土東方の警戒ラインを構成
特設工作艦 6 貨物船 大・中 △ 前線での応急修理
特設港務艦 2 貨客船 大型 △ 前線での港湾業務 緒戦期のみ
特設測量艦 2 貨物船 小型 △ 測量
特設電纜敷設船 3 貨物船 小型 △ 電線ケーブル敷設
特設救難船 8 貨物船 中・小 △ 救難
特設病院船 7 貨客船 各種 △ 巡回医療船
特設運送艦船 404 各種 各種 × 各種用途あり

サイズはおおよその目安で、特大型:12000総トン以上、大型:6000トン以上、中型:2000トン以上、小型はそれ以下。改造程度は大規模な順に、◎→○→△→×。航空母艦はほとんど原形をとどめないまでに改造され、後に海軍が正式買収。運送船には非武装のものもあった。
注:空母は特設艦に編入されず直接買収されたものを含む。「改造された豪華客船の数」を示す。
  運送艦船は給兵(弾薬類)、給油、給炭、給炭油、給水、給糧、雑用の各種に細分される。



「海上護衛戦史概観」へ

back
エントランスへ