Episode T

1 誕生

父と母が語る憧太物語

 平成16年9月6日、この日生まれる長男に口唇裂があることは知っていた。家族みんなも知っている。
  帝王切開。手術室から助産師に抱えられ出てきた息子は、布で鼻の辺りまで包まれたまま、手術室の前で待っていた僕たちの前を、ほとんど止まることなく過ぎて行ってしまった。
「おめでとうございます、男の子ですよ」という助産師の声も、なぜか力のないものに聞こえた。

 あまり時間は経っていないと思う。時間の感覚が分からない。母親も手術室から出てきて、病棟へ移った。家族そろって母親の病室で息子の処置を待つ。いま息子は、どうなっているのか・・。
家族に笑顔はない。
 しばらくすると、新生児室の奥に通され、ガラス越しに保育器に入れられた息子を見ることが出来た。僕だけが行った。・・・憧太っ!・・・遠くてよく分からない。「元気ですよ、よく動いて」看護師が言ってくれる。少し救われた。
 すぐに小児科のドクターから 憧太の状態についての説明があった。
「いくつかの障害があります。まずは口唇口蓋裂、それから多指症・・手の指が片方、一本多いです。そして、呼吸の状態がよくありません。その他、心臓などには異常は見られません。しかし、すぐに周産期センターの方へ移したほうが良いかと」

 僕は、このことをどう家族に伝えればよいのか迷った。五歳の娘もいる。病室に帰った。とりあえず笑顔をみせて
「元気だって。やっぱり口唇口蓋裂・・・それから、呼吸の状態があまりよくないみたいで、病院移るみたい・・・」多指症のことは言えなかった。
 保育器に入ったまま母親の病室に憧太は運ばれてきた。移送の前に母さんに顔を見せに連れてきてくれたのだ。わずかな面会。母親の胸に抱かれる間もなく、憧太は連れ出された。
 しばらくして、救急車のサイレンが病院から遠ざかって行くのが聞こえた。 僕もすぐにあとを追った。

 県立中央病院周産期センター。どれくらい待ってか、「検査が終わりました。どうぞ」とNICUに通された。ズラリとならぶ保育器。その一つに憧太がいた
 うつ伏せに眠る憧太には、よく分からない管や線が付いており、モニターなどから聞こえる「プー、プー」
というアラーム音がより一層緊迫感に煽りをかけてきた。 時折ゴソゴソと動き首の向きを変える様子を見て、「ああ、動いてる・・・」なんとも嬉しい気持ちになった。 
            

                                            つづく

                                            

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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