[ボクの王様。]

 

 

 

 

 

「はぁ〜ぁ…」

 放課後の部室。大きな溜息にまもり姉ちゃんがひょい、と僕の顔を覗き込む。

「どうしたの?そんな大きな溜息ついちゃって」

 ぼんやりしていたせいか自分が溜息をついたことすら気付いていなかった僕は、
 かけられた声にびくりと身を震わせた。

「え?な、何?」
「溜息。凄く大きいの零してたわよ?疲れてるの?主務の仕事、大変だから」

 問われて慌てて両手を振りつつ笑みを返す。

「そ、そんなんじゃないよ〜、大丈夫!」
「ならいいけれど。
 またこき使われていじめられてたりとかしてるなら、私に言ってね?はっきり言ってあげるから」

「なぁ〜にをはっきり言うんだ糞マネ?」

 二人にとっては馴染みのある声が背後からかかり、僕は硬直し、まもり姉ちゃんは素早く振り返った。
「あなたがまたセナをいじめてたら、私セナをつれてここやめますから!って言うのよ」
 僕は隣でまもり姉ちゃんの言葉にあたふたして両手を振り上げた。
 あまり刺激するのは控えて欲しいと思う。

 後がコワイからだ。

 案の定、蛭魔さんは眉を片方つり上げて、姉ちゃんから僕へ視線を移した。
 その酷薄そうな薄い唇が、にたり、と悪魔の笑みを浮かべるのが見えると
 僕の血の気が一気に足元まで落ちていく。

「ははぁ〜ん?そうかそうか、こんなに可愛がっているのにまだ足りないってことだな?」
「ち、違いますよ違います!!」

 慌てて言うが、あの顔は完全に悪巧みをしている顔だ。
 僕は観念してがくりと肩を落とすと再び深く溜息を零した。

 まもり姉ちゃんにも言えない秘密が、僕にはあった。
 僕が実はアイシールド21であること。
 ――これはもうどっちかというと、まもり姉ちゃんだけが知らないみたいなもんだけれど。

 もう一つ実は、秘密があったんだ――。

 

 

 

「ひ、蛭魔さ…っやめてくださいよ〜!」
「うるせ。さっきのアレぁ何だ、この糞チビ。俺がいついじめたって?あァ?」

 襟首をその細く長い指が掴んで、小さくかく、と揺らした。
 僕は既にロッカーに押しつけられた状態で、逃げることも叶わない。
 座った目がコワイです、蛭魔さん。

「おら、言ってみろ。俺がお前を苛めてるってのか?」

 ぷち、と長い指先が、僕の服のボタンを器用に片手で外していく。
 それに気付いて慌てて手首を掴んだら、じろりと睨まれた。

 それでも僕は手をどけることが出来ない。
 だってこんな場所で、部室のロッカールームで。

「お前は、誰のもんだ。――言ってみろ、セナ」

 ――そんな甘い声で、耳元で囁かれたら。

 

「―――…蛭魔、さんの…」

 それだけ言うと、ちらりと上目遣いに眺めてみれば――悪魔みたいな笑顔があった。
 一体どうして僕は、こんな人に惚れちゃったんだろう。

「解ってんじゃねぇか。この糞チビ。だったら糞マネに言いたい放題言わせてんじゃねぇよ」

 言いながら素早くシャツのボタンが外されていく。
 慌てている間に前がはだけてしまって、顔に血が上るのを感じながら僕は両手をばたばたと胸元で振った。

「あ、あれはまもり姉ちゃんが勝手に勘違いして……!」
「言わせたお前の責任な。――だからこれは罰だ」

 かぷ、と小さな音。噛み付くみたいにして与えられた口づけは、最初はいつも優しい。
 ねっとりと絡められる舌先に、甘い痺れが走り始めると徐々に深くなっていって、息も付けない程で。
 くらくら頭が揺れるのを止められない。
 口づけに翻弄されている間に、長くて細い指先が耳朶や、首筋や、
 鎖骨をなぞるから吐息も上がって息苦しくなって、
 それでも口づけは何度も角度を変えて施されるから、なりふり構って居られなくなる。

 

 こういうのを、溺れてるって言うの?何が何だか解らなくなって、あっと言う間に落とされた。
 力の抜けた躰には、もう抵抗なんてできやしない。

 

 細い指先は肉が薄いせいか、少し体温が低かった。
 ひやりとした感触が胸元へ滑ると小さく僕の顎が揺れる。僅かにまた体温が上がる。触れられる度に、
1度ずつ上がるみたいだ。ずっと触れられていたら、どうなってしまうんだろう。
「お前、胸が感じやすいよな。少しくらい痛いくらいのほうがいんだろ?」
「ち、違います…っ」
 でも、言われる言葉にすら反応してしまうんだ。
 きつく抓られれば胸の突起は赤く色づいて痛みを伝えてくるけれど、その後やんわり指先で転がされれば
じんじんと痺れが波みたいに広がってくる。こんなの、僕のせいじゃない。蛭魔さんの指のせいだ。
いつもいつも、蛭魔さんの指が、唇が、――。
 そう思ったところで漸く気付く。
 さっきまで誰が来るか解らない場所で怖かったっていうのに――もう僕の頭の中は
蛭魔さんでいっぱいになっちゃってる。

 

 

 僕、溺れてるんだ。

 

 

 

「――赤くなってきたな」

 ぽつりと呟かれれば、また体温が上がった。もう顔が熱くて、火が出そうだ。
 捻られて転がされて、敏感になった突起に蛭魔さんの唇が軽く口づけしてからねっとりと舐めてくる。
 指先ですでに開かれた快感は、もう止めようがなくて、柔らかくて温かくて湿った舌先に嬲られれば
僕は思わず小さく声を上げてしまった。

 慌てて人差し指の背を噛みながら声を堪えていると、蛭魔さんが「堪えないで声出せよ」とか言う。
 やっぱり場所が――それに、恥ずかしい。声なんて出せるわけない。

 

 きつく閉じた瞼から、じわりと生理的な涙がにじむ。それを開いた方の手の親指で軽く擦って拭うと、
蛭魔さんはまたにやりと笑った。
「まだここ触ってるだけ、だぜ?」
 その言葉が指す意味が一瞬解らなくて、目を瞬かせた。ふと指さされている下腹部へ目をやって、
僕は途端首まで真っ赤になってしまった。
 まだ、触られても居ないのに立ち上がっている。
「そんなによかったのかよ?」
 揶揄するように言う言葉に僕は穴があったら入りたいくらい恥ずかしかった。
 両腕で顔を覆って、せめて顔の火照りくらい隠そうとしたら、片手で両手をとられて、頭の上へ
持ち上げられる。ロッカーの冷たい表面が腕へ触れて、ぞわりと肌が粟立った。

「ひ、るま、さ」
「…触って欲しいんだろ?」

 その言葉に頷くことも出来ず、視線を泳がせていると、ズボンの上からする、と長い指が撫でてきた。
 すでにズボンを張りつめさせていた僕のは、それだけでびくびく震えた。

「ふぁ…っ」

 思わず声が漏れてしまって、慌てて唇を噛む。にやついている蛭魔さんが憎たらしい。
 僕の反応を楽しんでいるんだ。やっぱり悪魔だ。

「直に触ってやるぜ?」

 いちいち宣言しなくてもいいのに。ズボンの前はやはり片手でいとも容易くくつろげられて、
自重でズボンはずるりとずれて足元へ蟠る。下着もそれに習って降ろされた。
 布がずる、とずれる時ですら、僕の肌は敏感になっていてまた鳥肌が立った。

「ひ、ぁ」

 堪えようのない悲鳴じみた声が漏れて、僕は目をきつく閉じた。
 繊細な指使いが、僕のを包んでる。
 先端を揉んだり、全体をしごいたりして、僕はそれだけで腰を浮かせてしまう。

「は………んぅ…っ」
「………」

 いつもなんだけど、蛭魔さんはこういう時、僕の顔をじっと見つめてるんだ。
 僕もそれが解るから、目は閉じたままでいる。だって視線があったりなんかしたら、
恥ずかしすぎるじゃないか。
 一体、どんな顔してるんだろ、今の僕。気持ちよさそうにしてるのかな。
 そんな顔、蛭魔さんに見られちゃってるのかな。

「あ」

 自分でもビックリするくらい大きな声が漏れて、両手で慌てて口を塞いだ。
 蛭魔さんの長い指が、後ろに這ったんだ。

 そこももうすでに蛭魔さんに何度も広げられてて、指を感じると吸い込むみたいにひくつく。
 自分の躰が蛭魔さんを欲しがってるのが解って、余計恥ずかしさにそこに力を入れてしまう。
 膝が笑って立ってるのが辛くて、目を開いて蛭魔さんを見つめたら、

 蛭魔さんはにやりとまた笑って僕の片足をぐいと引き上げた。

「俺が支えててやるって、心配すんな糞チビ」
「や、だ、だめです蛭魔さ…っあぅ、あっ!」

 僕の中に蛭魔さんのが入ってくる。片足でしか立てない状態で、膝ががくがくと笑いっぱなしで。

 最初は浅く入り口当たりを責められて、
 僕が苦労して声を耐え始めると時々深くへと勢いよく突き立てる。

「……っっ…っ…ぃあ…っ……っっひ、…っ」
「……っセナ……っ」

 蛭魔さんの荒い吐息が耳元で聞こえる。名前を呼ばれただけで、ぞくぞくと躰を電流みたいな快感が走る。

 蛭魔さんも、感じてるんだ、って思ったら、すごく後ろがきゅうぅってなった。
 それが自分自身も気持ちよくして、また震えてしまう。
 蛭魔さんのそれがだんだん、だんだん速度を上げて、奥へ奥へ向かって。
 痺れがくるみたいな感覚が走る、所を何度も擦られて頭が真っ白になって、一瞬意識がとぶ。
 きっと跳んでる。

 ぺち、と頬を叩かれて、びくりと震えて目を開けば、
 僕はもう達していて、白いミルクがお腹に飛び散っていて。

 後ろが酷くぬるついて、内に放たれたのが解る。

 恥ずかしくなって顔を隠しながら言ってしまった言葉が、また致命傷だった。

「う、ぅ…蛭魔さんのばか…」
「馬鹿だァ?」

 

 片眉をぴくりと上げる仕草。それから、また抱かれちゃうんだ。

 

 

 僕の王様は我が儘で。結局僕は逆らえない。

 最近、夜部活で遅いって家には言い訳してるけど…いつまでこの言い訳もつかなぁ…。