for the first time】




 「……香、お前が欲しい。」


強引に掴まれ、引き寄せられた手首。無意識に込められた力は香の手首を圧迫し、

その指に握られていたピンセットが“カシャン”と頼りない音を発て、フローリングの床へと落ちた。

あまりにも唐突な告白に驚いた香の瞳が捉えたのは。始めて見る“男”の顔をした撩で。

隠そうとしない欲望を映す双眸は……業火のように熱い視線を伴い、ジリジリと香の身を焦がす。


 「……傷の手当て……しないと。」


クロイツ親衛隊と壮絶な銃撃戦を繰り広げ、満身創痍の撩の身体が纏うのは……真新しい血と硝煙の匂い。

本来ならば、思わず咽返りそうな程の血と硝煙の匂い。

しかし、それは撩の体臭と中和され不思議と、抱かれた腕に不快感はない。

むしろ……移り香を求め、“男”の望むままに……と囁く“女”の自分を信じられず。

戸惑いを隠せぬ香は逃れようと。

弱弱しい抵抗見せ、逞しい撩の胸板に両手を付き、密着する身体を引き離そうとするが。

香の腰にまるで拘束するように絡みつく腕は……それを許さない。


 「……逃げるなよ。」

 「逃げてなんか……ぁん。」


香の耳元を擽る、撩の熱い吐息。耳朶に己の痕跡を残すように軽く歯を立てれば。

撩の息遣いを間近に感じ、敏感になっていた香の唇から。溜息にも似た甘い吐息が零れる。


 「俺の気持ち……は解ってる、だろ?」


愛しい女を助ける為に語られた、男の本音。

長年封印してきた想いを伝え、枷になるものは……何もない。




心だけでは足りない……香の全てが……欲しい。




己の感情に封印してきた欲望を抑える術は       すでに無い。


 「香を……感じたい。」


低く落ち着いた声が。熱と艶を伴い、甘美な“誘い”の旋律を奏でる。

 
 「……りょ、う。」


撩という熱に犯され潤む瞳、上気した頬。香の熱を孕んだ眼差しが無言の合意を伝える。







†  †  †  †  †  †  †







優しく押さえつけられる香の身体。

いつもと違う荷重に“ギシッ”と小さな悲鳴を上げるベッド。



見慣れた部屋の……見慣れぬ天井。

見慣れた男の……見知らぬ顔。



見知らぬアングルで捉えた男の顔に思わず見惚れる。


「……どうした?」


そんな香の熱い視線を感じ、撩はフッ…と優しく口元を緩める。

そんな表情に…更に高まる胸の鼓動を沈めようと、香は小さく深呼吸した。

肺に広がる煙草の匂いと撩の体臭。シーツに染み付いた“男”の匂いにクラリと酔いしれる。


「ドキドキしてる……緊張してるの、か?」


不安、期待、喜び、恐れ。

全てが綯い交ぜになり、早鐘のように打ち付ける鼓動。

そんな胸の内を悟られた香は、思わず顔を背ける。


「俺も……だ。」


撩はそう言って、香の右手を導く。逞しい胸板に押し当てられた掌が捉えたのは。

ポーカーフェイスの下に隠された真実。




愛しい……




不意に湧き上がる、狂おしいまでの激情。

香の両手が優しく撩の頬を包む。


「香……?」


軽く上半身を浮き上がらせ、そっと唇を重ねる。

触れるだけの軽いKISS。

ふんわりと羽根の生えた優しい天使の口付け……


「撩……愛してる……。」


唇が触れ合うか、触れ合わないか……ギリギリの距離で囁かれた台詞。

小さな声ではあったが、それは確実に撩の耳に届いた。







†  †  †  †  †  †  †







「……そんな、に……見ないで……。」


ブラインドの隙間から差し込む月の光を浴びて、シーツに香の白く輝く裸体が浮かび上がる。


「……綺麗だ。」


囁きと共に熱い吐息を溢す撩の唇がそっと、香の首筋に落ちる。

軽い痛みと共に甘い痺れが駆け抜けると……白い肌には所有の証となる紅の花が咲いた。


「はぁ…ん……んんっ……あぁ!!」


身体のラインをなぞるように滑る撩の唇と指が、たわわな乳房を捉える。

大きな掌が優しく包み込むように乳房を揉みしだき、熱い唇は啄ばむ様に優しく触れる。

そして、輪郭をなぞるように舌と指を這わせれば、自己主張を始める頂。

硬くしこった乳首を摘み、舌で丁寧に転がし甘噛みすると。香の唇から漏れる吐息が甘さを帯びる。

その変化を感じ取ると。撩の手が内股を摩り上げ、繁に隠れる蕾へと伸びる。

スッ…と花弁をなぞると、まるで朝露を含んだ花のように、そこは淡く潤っていた。


「……濡れてる。」


意地悪く囁く撩の台詞に香は羞恥心を煽られ、思わず顔を背ける。

撩はそんな香の身体を煽るように、指を花芯の奥に眠る蜜壷に差し込む。


「……っ、あっ……。」


しかし、異物の進入を頑なに拒む蕾。僅かに寄せられた香の眉根が苦痛を訴える。


「キツイ、な……香、力…抜け……。」


だが……慣れぬ行為に益々、香の身体は強張る。


「……良くしてやるよ。」


そう言って、身体をずらす撩の行動に気付いたのか。香は慌てて、膝を閉じようとする……が。

力で勝てるはずも無く、左右に開かれた膝。 自分さえも…知らない秘所が撩の目の前に晒されてしまう。


「あ……いやっ…!!」


蕾の間近に撩の息遣いを感じ、更に香の身体が強張るが。熱く蠢くモノの進入により、強張りが解けていく。

押し広げられた花弁をなぞる肉厚な舌。その下に隠された花芽を刺激すれば、トロリと溢れる蜜。

勿体ないとばかりに吸い付くと、噛み締めていた香の唇から堪らず零れる吐息。

蜜壷を丹念に味わうと舌を抜き、もう一度。人差し指を差し入れれば、先程より容易く進入を許す花芯。

蕾は綻び始めていた。クチュクチュと卑猥な水音を発てながら、抜き差しすると溢れる蜜が撩の腕を滑り落ちる。

全てを知り尽くそうと、胎内を蠢く指がザラついた壁を捉えた。カリッと小さく引っ掻くと、香の身体が大きく跳ねる。


「……ここがイイ、のか?」

「っ、あぁ……やっ……そこ、は……あぁ!!!」


責めるように……しつこくそこを嬲ると。慣れぬ刺激に敏感に反応する香の身体は達してしまう。







†  †  †  †  †  †  †







「……感じ、やすいんだ、な?」

「……バカッ////」


微かな笑みを浮かべ、囁いた撩の台詞で。霞がかった香の意識は羞恥と共に覚醒する。


「いい、か……?」

「…………。」


撩の眼差しが再び、熱を纏っていた。その台詞の意味を理解した香は静かに頷いた。

濡れそぼった花芯に宛がわれる撩の欲棒。



     これ以上は……後戻り、出来なくなる     



突如、躊躇いの感情が撩を支配する。



今更……何を躊躇うことがある     



後悔     



後悔などする筈が無い。後悔をするなら……今まで、己を誤魔化し続けたことにだ。



ならば……この躊躇いは何だ     



深い思考の海へ溺れる撩。

ほんの一瞬、撩が見せた困惑の表情を……香は見逃さなかった。





「……お、ねがい。焦らさないで……怖いのは、アタシも一緒…だから。」





怖い     



香の台詞で、撩は己を支配する感情の正体を知る。

そう、怖かったのだ。香が欲しいという本音の陰に隠れて見えなかった、もう一つの本音。

香を闇に堕としてしまうのではないか……穢してしまうのではないか……という、恐れ。

そして、それは香も一緒だった。撩に抱かれる事をずっと望んで、その願いが叶おうとしているのだが。

何か大きな流れに捕らわれてしまいそうな……不安めいた予感を感じ、恐れていたのだが……


「撩……。」


シーツを握り締めていた香の手が宙を彷徨う。

撩は縋るように伸ばされた手を捉えると、香の白く長い指に己の指を絡めた。


「……香。」

「撩と……一緒なら……怖くな、い……。」

「後悔     

「……なんて、しない。」


たとえ、行き着く先が闇の果てだろうと、二人一緒なら……何も恐れることは、ない。


「……か、はっ……あ、ぅ……。」

「く……ぅっ。」


弾けんばかりに猛ったそれは。圧倒的な存在感となって、香を責める。

初めての行為を受け入れるそこは。圧迫感で、撩を締め付ける。

撩は痛みに仰け反る香の身体を優しく抱き締め、苦痛に喘ぐ唇を塞いだ。

ゆっくり、押し広げるように腰を入れると、やがて遮るモノが行く手を阻む。

撩がグッと腰を入れた瞬間。喉の奥から、くぐもった呻きが上がる。

香の胎内を痛烈な痛みが駆け抜け、身体が引き裂かれんばかりのその痛みに耐えるように。

絡めた香の指に力が篭り、立てられた爪が撩の手に食い込んだ。


「……大丈夫か?」

「……う、ん。」


香の乱れた前髪を掻きあげ、雫を湛えた目尻にそっと唇を落とす。


「もう、少し……我慢してろ。」


撩の腰がゆっくりと抽出を始める。撩の欲棒が内壁を擦り上げる度、痛みが伴う。

しかし、香を気遣うような緩慢な動きによって、その痛みも次第に落ち着いてくる。


「あ……ぁ…あぁ……っ、ん。」


いつしか、香の唇からは“女”の声が……嬌声が漏れ始める。

嬌しいその声に誘われるように。撩の刻むリズムが容赦ないモノへ変わる。

打ち付けられる腰の激しさに、堪らず香が声を上げた。


「はぁ…っん……りょ!!……も、ダメ……ぇ……あぁ〜〜!!」


初めて登りつめる、その感覚。

まるで、電流が走り抜けるとでもいうのだろうか?

足の先から頭のてっぺんまで飲み込んでしまった“快楽”という大きな波が。

香の身体を……意識を……全てを浚っていった。

同時に、香の胎内に己の“想い”を全て、注ぎ込んだ撩の意識も薄れていく。

あの、銃弾の嵐の中を駆け抜けたのだ。既に、体力は限界だった。

撩は意識のない香に口付けを落とし、そっと香の胎内から己を抜き出す。

香の花芯から溢れる、己の精と香の破瓜の印。

今まで、感じたことがない程の……満足感を手にし。撩もまた、薄れゆく意識に身を委ねた。







†  †  †  †  †  †  †







「ぅん…っ……眩し……。」


ブラインドの隙間から射す朝陽の眩しさに、香は思わず顔を歪めた。

寝返りを打とうと、身を捩るがキッチリと腰に廻された腕がそれを許さない。


「……おはよ。身体…平気、か?」


頭上から聞こえる撩の声と、目覚めた身体に残る独特の気だるさと鈍痛が。

昨夜の出来事が夢ではないと訴えていた。下半身に残る鈍痛は“女”になった証。

撩の温もり、匂いが昨夜の事を思い出させる。


「……おはよう。」


ほんのりと頬を上気させながら微笑む香は、とても美しかった。


「お前って……かわいい声でイクんだな?」

「え……?」


突然、何を言い出したのか、と。

シパシパと瞳を瞬かせていた香だが……首下まで朱に染めあげ、俯いてしまう。


「香……。」


いつになく、真剣な声色で名前を呼ばれ、顔を上げる香。


「……も一度、聞きたい。」


そう言うと同時に、香の身体は組み敷かれていた。


「……伝言板、見に行かないと。」

「……疲れてるから、パス。」

「……じゃ、こっちも疲れてる……でしょ……」


やんわりと抵抗を試みる香だが、所詮……無駄な抵抗で。


「こっちは“別”なんだよ……。」


撩の唇が昨夜咲かせた“紅の刻印”を一つ一つ……辿るように、香の肌を滑る。


「っ……あ、んっ。勝手……な、んだから……。」

「男は……みんな勝手なモンさ。」

「はっ…ん……そ、れは…アンタ……あ、んっ……だけ、で、しょ……。」


熱を帯び、桜色に染まる身体。


「今日は…何処にも…行かせない。」

「じゃ、あ……しっか、り……掴まえて、て……。」













絡みあう肢体が縁の糸を紡ぎあう。

永遠に切れることの無い     固い絆という糸を。